「んーんんんーん〜♪ いやぁ、此処に来るのは久々だねぇ」


青い毛並みを持つ狼獣人が、長い口吻で器用にも鼻歌を歌いつつ荒地を進んでいた。

彼の向かう先には、4階立ての一つの建物がある。表面が木造張りの温かさを持つそれは、元はホテルだったようだが、今ではすっかり風化し、黒い汚れが生じていた。

だが今まで歩いてきた廃墟の街並みと比べれば、しっかり原型を保っている。――そのホテル跡地を見上げて、狼獣人は背中に背負ったものに話し掛けた。


「ようやく着きましたよ、ルミナ様」






――――――――






「仲間……ですか?」


遙は足元に注意して階段を下りながら、隣を歩くフェリスに問い返した。


「ええ、今はすっかり散ってしまったBRの仲間。……確か彼は、レパードと一緒に行動していた筈なんだけど、この間会った時にはいなかったからね」


「レパードさんと? じゃあ、また皆が戻ってくるんじゃないですか?」


彼女達は一ヶ月近く前に此処を去ったとはいえ、やはり仲間は仲間である。

例え離別したといっても、何かの拍子に戻ってくることも不思議ではないだろう。仲間が増えれば自分だけでなく、ガークやフェリスにとっても心強い筈だ。

だが、遙が期待に胸を膨らませ、顔を輝かせるのと裏腹に、フェリスは困惑した様子で顎に指腹を押し付けた。


「ううん、どうかな。彼一人で来るのは、どうにも腑に落ちないのよ……」


妙に考え込むフェリスを怪訝そうに見ながら、遙は一階の廊下に立った。

階段を降りる分には怪我による支障も無く、遙はフェリスよりも先に一階の廊下に足を付ける。そのまま落ち着かない様子で一階に下りた三人は、ゆっくりと玄関に近付いた。

フェリスが先頭に立って引き手に指を回そうとした途端、玄関戸に軽いノックがかかる。


「はいはい、今開けるわよ」


フェリスが気だるげに戸を開けた途端、風に乗った砂煙がぶわっと入ってきて、遙は思わず咳き込んだ。

そっと開いていく視界には、ゆらゆらと獣人の影が浮かび上がる。遙は肩をびくりと揺らした。


「じ、獣人?」


砂煙が晴れた玄関に立っていたのは、ガークよりも少し大柄な狼獣人だった。

大きな特徴は全身を覆う青い被毛で、自然発生した動物から獲得した遺伝情報とは思えない程鮮やかな色彩である。

頭頂に立つ耳は一般的なオオカミと同様に直立耳であり、右耳にはフェリスのものと良く似た、赤い宝石を設えたピアスを付けていた。

服装は肩口にファーの生じた紺のノースリーブジャケットと茜色のカーゴパンツを纏っており、腰の後部からは長い毛に包まれた尾が伸びていた。


子供の様に澄んだ眼はワイン色の獣眼で、顔から左腕にかけて幾何学的な模様を持った刺青が彫られている。

やや想像からずれた相手の格好を見て、遙は思わず目を瞬いた。


「Quanto tempo! Tudo bem?」


驚く遙を他所に、狼獣人は何やら外国の言葉を陽気に話しながら、フェリスに向けて右手を挙げた。

その様子を見たフェリスは苦笑を浮かべると、小さな声で答える。


「Tudo bem......あ〜、コバルト、久々に会ったばかりで申し訳ないけど、黎峯の言葉に切り替えてくれるかしら?」


「Hum......これでいいかい、フェリス?」


フェリスに言われたとおり、黎峯の言葉に切り替えつつ、狼獣人は微笑むように口角を曲げた。

コバルトと呼ばれた彼は、フェリスから斜め下に視線を落として、立ち竦んでいた遙に目をやる。遙の姿を視界に収めた途端、彼の眼が輝いた。


「おおう! これはまた可憐なお嬢さんだ。俺の名前はコバルト、見ての通り、クールな狼獣人だ。何かあったらいつでも俺を――」


「これ、コバルト、遙が嫌がるではないか」


フェリス達の間に割って入ってきたレオフォンが呆れ気味に突っ込んだ。

遙は呆気に取られた表情で口を開く余裕が無かったが、背後から現れたレオフォンに対して、コバルトは尻尾を左右に軽く振って答える。


「はは、申し訳無い。レオフォンさんが言う所、君がハルカか?」


「え、あ、はい」


コバルトに話題を振られ、遙は噛みながら返事を返した。


「やや! やっぱりそうか、実は今回、君に用があって此処に来たんだよ。とびっきりの大ニュースさ」


そう言いながら、コバルトは背中に乗せた白い『何か』ゴソゴソと揺さぶった。


「起きて下さい〜、ハルカちゃんのとこに着きましたよ! ……お?」


「……それは」


コバルトの背中に乗った『もの』。それはずるりと落ちると、ガラガラと音を立てて玄関に散らばった。

白いシーツの切れ端から、コロリ、と乾いた音と共に転がった、白骨化した何かの骨……恐らく狂獣人のものだろうが、フェリスはジト目になってコバルトを睨む。


「コバルトもガークと同じように骨を齧る趣味があったのねぇ。私達にそんな趣味を押し付けにやってきたって事?」


「違うッ! 違うぞッ!! こんな筈じゃ……ルミナ様ぁーッ、一体、一体何処へ、ああー!!」


コバルトが取り乱した様子で骨を掻き分けながら発した言葉に、遙は目を見開いた。


「……ル、ミナ……? まさか……」






――――――――






「お、おい、あんた……」


ガークは荒地に横たわった女性の背に、そっと手を当てた。

分かり辛いが、背中越しにも鼓動が感じられる上、静かに呼吸をしている。死んでいる訳ではない……そう感じたガークは、続いて鼻を近付けた。


「……う、ん」


ガークが鼻を近付けた途端、女性は眉を顰めて呻いた。ガークは塩梅を伺うように、女性の傍へ顔を寄せる。


「おいおい、起きろ。怪我はねぇか?」


「!?」


言下、何の前触れも無く、がばっと起き上がった女性の頭に、ガークは盛大に顎をぶつけた。


「ゴァッ!!」


「此処は……。あら?」


ガークが顎を押さえてヨロヨロと起き上がるのとは正反対に、痛みさえ感じていないのか、半目で周囲を見回す女性は目を擦った。


「……コバルト? いつの間にそんなに真っ黒に日焼けして、大丈夫?」


「ッ!! 俺は日焼けなんざしてねぇッ! それもコバルトの野郎でもねぇ、てめぇは何者だよっ!?」


痛みに唸っていたガークは、女性の発した言葉に憤りを感じると、声を張り上げて相手に迫る。

――しかし、彼女の顔を見た途端、ガークは思わず言葉を失った。


穏やかな鳶色の目。肩にかかるぐらいの長さに切り揃えられた黒い頭髪。服装は砂埃で汚れた白衣で、顔立ちはやや凛とした、大人びた雰囲気はあるが……


(遙……!?)


「私の名前は瑠美奈よ。あなたは?」


愕然とするガークを他所に、女性は丁寧に名を名乗ってきた。

ガークはその言葉を聞き、はっと現実に引き戻されるようにして答える。


「ああ? ルミナっつぅのか? 俺はガーク……ってそうじゃねぇ!!」


ガークは素早く立ち上がると、数歩バックステップを取って瑠美奈と名乗る女性から離れた。


「てめぇ、何者だよ。分かるぜその匂い、GPCの奴らと同じ薬の匂いがする。おまけに白衣と来た。
さっきコバルトって名前も言ってたが、あいつとはどういう関係で、お前は何者だ!?」


GPCの匂い……研究所にいた時から嫌と言うほど嗅ぎ慣れたものだった。

独特の刺激臭がする薬品の匂いや、研究員から放たれる氷刃のように冷たい空気。それら全てが自分達にとって憎悪の対象であり、戦うべき相手として見てきたのだ。

そのGPCの研究員特有の匂いが、目の前に座る女性からほんの微かに流れてきている。ガークは今にも相手の喉笛を食い千切りそうな程に牙を剥いて唸った。


しかし、瑠美奈はガークの憤りを肌で感じながらも、おかしなことに僅かに笑みを浮かべて返した。


「凄い嗅覚ね。とっくにそんな匂い消えているかと思っていた。……でも、あなたが何者か分からないから、私も答えようが無いわ」


「てめぇ……おいッ!」


「GPCの奴らって言っていたから、恐らく、あなたはGPCと敵対している獣人ね、コバルトとは――」


「さっきからどっち向いて話してんだお前はッ! そっちは廃車のボンネットだよ! 神妙な顔して話している癖に目は見えてんのか、ああ!?」


ガークは瑠美奈の言葉を遮って叫ぶ。

彼女の向ける視線の先には、無数の錆と疵によって動くことさえ叶わないであろう、黒い装甲を持った廃車があるのみだ。

ガークに突っ込まれたことを確かめるように、瑠美奈は眼を凝らして目の前の廃車を見詰める。その様子を見る限り、どうも視力が弱いようだった。


「36……7……ナンバープレートだわ。眼鏡が無いと、分からない」


「視力検査じゃねぇんだぞ……! ったく、眼鏡か、何処かに落としたっていうのかよ。世話の焼ける女だ」


ガークは苛立ちを募らせながら鼻を使って辺りを捜索すると、数メートル先に転がっていたコンクリート辺の上に、やや傷のついた眼鏡が落ちているのを見付けた。

すぐさま手にとって見てみると、薄らとだが瑠美奈のものらしい匂いが感じられる。レンズに白い傷が入っているものの、薄い青のフレームを持ったそれは、彼女のもので間違いなさそうだ。


「ほら、こいつだろ? とっとと付けろ」


ガークは眼鏡を乱暴にも瑠美奈に投げ付けると、彼女は取り落としそうになりつつもしっかり受け止める。


「有難う。ええと、あなたは……」


「ガークだ! 眼鏡まで持ってきてやったんだ、早いとこ素性を言えっつってんだよ! 本当にGPCの奴らなら、容赦しねぇぞ……」


グルルッ、と喉を低く鳴らして、ガークは瑠美奈を恫喝した。

普通の人間であれば、鋭い犬歯を剥き出し、敵意を露にした狼を目の当たりにして、震え上がらない筈が無い。

だが、相手は想像以上の非凡人だったらしい。瑠美奈は眼鏡の位置を整えながら、ガークに向かって先程と同じように穏やかな口調で返してきた。


「私は瑠美奈、さっき名乗ったとおりよ。コバルトとこの近くにある獣人の拠点を目指して来ていたの」


「随分といい加減な返答じゃねぇか。俺が聞いていたのはな、お前がGPCの連中かってことだ。この獣人の姿を見てもビビらないってことは、お前は『外』の人間じゃないんだろ?」


「……『元』GPCの研究員よ。今は、彼らとは関わっていないわ」


「! てめぇ」


ガークは瑠美奈の胸倉を荒々しく掴んだ。


「何が目的だよ……! 数日前もワンサカ押し寄せてきやがって、今回もあいつが目的だってんなら、女でも二、三発殴るぜ」


「……私からも同じ質問をするわ。あなたは、GPCの獣人かしら?」


「! 誰があいつらなんぞと手を組むかっ、俺はGPCとは関係ねぇよ」


ガークは思わずそう返答した時、はっと息を呑んだ。

一方で瑠美奈は焦る様子も無く、冷静な眼をガークに向けている。――数秒の沈黙の後、唖然としたガークを見詰めて、瑠美奈は苦笑を漏らした。


「私と同じ答えね。実は私もGPCに狙われているのよ。あなたは、私を殺しに来た人かしら?」


「うるせぇ、違うに決まってんだろ! 簡単に命を奪うGPCの連中と一緒にすんな! お前は何なんだチクショウッ」


「私が言いたいのは、あなた達にも敵味方があるように、GPCの研究員全てが悪者じゃないってことよ。研究員も獣人も同じ『人間』なんだから」


「……クソッ、気に食わねぇ!」


ガークは悔しげに吐き捨てると、瑠美奈の胸倉から手を離し、その場に座り込んだ。

瑠美奈は、こっちを混乱させるために言っているのだろうか。GPCの奴らに善悪なんかが存在するなど……


(ちょっと待てよ……GPCの研究員が悪い奴らかどうかって……ほんの少し前に、そんな話をしなかったか?)


ガークが何かを思い出すように頭を悩ませる中、解放された瑠美奈は少し咳き込みながら口を開いた。


「私はコバルトという狼獣人と一緒に此処へ来ていたけど、途中で砂嵐に遭って逸れてしまったの。
あなたがコバルトの名を知っているのなら、連絡を取ってくれると嬉しいのだけど。多分、彼は近くにいると思うわ」


ガークは瑠美奈を警戒しつつも、周囲に獣人の気配が無いことを悟り、大きく溜息を漏らした。

……GPCの研究員、か。ガークは数日前に襲ってきたヴィクトルという男を思い返した。不気味なワシの頭部を持つ、鳥人種の幹部研究員。

だが、あれはこちらのことを実験動物程度の、物のようにしか見ていなかったが、今此処にいる瑠美奈はどうもそんな感じではない。彼女は獣人のことさえ、『人間』だと言ったのだ。

何が目的なのかは不明瞭だが、取り合えず殺気も何も感じない。仮に罠があったとしても、匂いで見つけることは可能だ。


「……しゃあねぇな。でもよ、コバルトの野郎とは、もう半年ぐらい会っていないんだぜ。本当に近くにいるのか?」


「ええ、恐らく。彼は私を此処まで背中に乗せて来てくれたの。道中、狂獣人に襲われたりでもしたら危険だろうからってね」


瑠美奈の台詞を聞いたガークは頭を掻くと、ゆっくりと体を屈ませた。


「ふん、まぁ、背中に乗れよ。そっちの方が早い。……だが、不審な動きをしたら咬むぞ」


「有難う、ガーク」


そう言った瑠美奈の顔と声に、ガークはどうも戸惑いを隠せなかった。

そうだ、この顔と声。瑠美奈の容姿も声音が、何よりも自分を混乱させているに違いなかった。

黎峯人の大きな特徴である黒い頭髪と鳶色の瞳、彫りの浅い顔。人を疑う気持ちさえ見受けられない程に澄んだ眼差しは、ガークが見知ったものだった。


(こいつ、遙にそっくりだ。顔も声も、雰囲気だって……)


ガークは戸惑いつつも瑠美奈を背中に乗せると、立ち上がって歩み始めた。

……だが、そのまま数歩歩いた所で、ガークがぴったり足を止める。


「……おい」


「何?」


「襟首の毛をモフモフすんのはやめろ。くすぐったくて進めないだろが!」


ガークの叱咤に、瑠美奈は苦笑しつつ彼の首から手を離した。






――――――――






「まずい、まずいぞ……もしや、あの砂嵐の時に見間違えて……」


狂獣人のものらしい、歪な骨片を散らかしたまま、コバルトは鼻面を玄関の床に押し付けて呻いた。

唯でさえ青い顔立ちが、更に青く見えるような気がする。最も、毛で覆われているために顔色など分かる筈も無いのだが……そんなコバルトの動揺っぷりにフェリスは眉を顰めた。


「一体何を持って来ようとしたのよ。悪戯ならレパードに言い付けるわ」


「! 後生だッ、隊長には言わないでくれ!! それに、俺が背中に乗せてきたのは、物じゃないんだ! 人なんだよっ」


「ああもう、鼻が近い! レパードには言わないから、とにかく落ち着きなさいコバルト」


いきなり立ち上がって迫ってきたコバルトに、フェリスは辟易しながら顔を背けた。

そのコバルトの慌て様に、フェリスだけでなく、レオフォンも顔を顰めて唸る。


「もしや、お前が言っているのは……」


「レオフォンさんなら分かるでしょ? そうっス、大切な人ですよ! 俺達獣人にとっても、ハルカにはもっと大切な人……」


ウォォオオォォォン


皆が皆騒いでいたその時、遠くから狼の遠吠えが聞こえてきた。透徹した咆哮を聞いた四人は、一斉に動きを止める。

突如として響いた咆哮に、コバルトの長い口吻を掌で押し戻していたフェリスは、玄関から見える空を仰いだ。


「遠吠え(ハウル)だわ……それも、ガークの声。もしかして、呼んでいる?」


「あの野郎! そういえば此処にいないし、この後に及んで何やってんだ! フェリスと一緒だったんだろ? ……って、ハルカ?」


掴み合いをしていたフェリスとコバルトの脇を通って、遙は慌てて外に飛び出した。

砂嵐が晴れた空に響くオオカミの遠吠え……それはガークの声そのものだが、それだけじゃない。



分かる、この気配は――



「……ッ!!」


「ちょっと、遙! 何処へ行くのよ」


いきなり弾かれたようにして遙が走り出し、フェリスが止めようと声をかけるが、彼女にそんな静止の声は届かなかった。

ザッザッザ、と瓦礫と砂を踏み拉きながら、遙はガークの声がした方向に向かってひたすら駆ける。

足元に広がるガラス片や鉄骨の類を乗り越え、自分の息遣いも鼓動も聞こえない程に、遙は唯一点を目指して廃墟の街を駆けた。


「一体どうしたのかしら? まだ怪我も治ってないのに、あんなに急いだら身体に毒だわ!」


急に駆け出した遙の後を追って、フェリス達も拠点を飛び出した。


「うう、夜通し歩いて着いたばっかりだってのに、何だってこんな全力疾走を……しかも想像以上に足が速い子だな」


フェリスとコバルトが追いかける中、レオフォンは慌てる様子も無く、ゆっくりと彼らの後を歩いていた。

丁度百メートル程先まで走ったところで遙は止まり、間髪を入れずに追いついたフェリス達は息を切らしながら地平線を見詰める。


遙の視線の先、廃墟を越えて見えてきた影を見て、後方を歩くレオフォンがそっと微笑んだ。


「ガークッ!!」


遙は叫び、再び地面を蹴った。その声に反応を示して、ガークらしい影が大きく左手を振る。


「おお、遙ぁ! 早くレオのおっさんを呼んでくれ、変な奴を拾っちまったんだぁー!!」


そういう彼の元に走り寄った遙は、荒い息を吐きながら立ち止まる。

皆も慌ててガークの所へとやってくる中、遙は呼吸を整えつつも、唖然とした様子で立ち竦んでいた。


「ガーク……!」


「おう、遙か、とにかくレオのおっさんを呼べ。……って、コバルト、お前どうしてこんなところにいるんだ!?」


ガークは久しぶりに見た元仲間の姿に、眼を瞬きながら声を上げた。だが、コバルトは再会に歓喜の声を上げるどころか、焦燥感溢れる様子でガークに迫る。


「どうもこうもねぇよ、この黒犬! それより、お前の背中にいる人はまさか……」


コバルトが言い終わる前に、ガークの背から一人の女性が降りてきた。

太陽の光を反射して純白に輝く白衣。黒髪に鳶色の瞳、怜悧な雰囲気を醸し出した薄いフレームの眼鏡をかけた顔は、穏やかな笑みを浮かべていた。

その顔を見て、一同が驚きを声にする前に、遙が素早く前へ飛び出していた。


これは夢だろうか……違う、確かに、そこに立っている……!



「お母さん……っ!!」



遙は泣きそうな声で、はっきりとそう叫ぶ。

予想だにしなかった遙の言葉に、ガークとフェリスは思わず息を呑んだ。






Back Novel top Next