「うおーい、遙! どこ行ったんだよー」


ガークは虚しい風音が流れる廃墟に向けて、大声を張り上げた。

だが、帰ってくるのは相変わらず反響した自らの木霊ばかりだ。再び帰ってきた自分の声にガークは舌打ちする。

隣に立って、遙の気配を探っていたフェリスも、やがて頭を抱えて溜息を漏らした。


「まさか、予想外に足の速い子ね……このままじゃ埒が明かない」


何と言っても、絶対不可侵区域の広さは一日やそこらで歩き回れるレベルではない。

遙もまだそう遠くへは行っていないだろうが、彼女の進んだ方角さえはっきり分からなかった。

フェリスは横に立っている霞んだ看板に目をやって眉を上げると、息を切らすガークの方を向いた。


「そうだ、ガーク、二手に分かれましょう。私は南側を探してくるから、ガークは此処をお願いね」


「ん? ああ分かったよ。無茶すんなよ、まだ敵がいないとは限らねぇんだからよ」


「ガークの方が心配だけどね。お互い用心しましょう」


そう言って、フェリスは踵を返すと、両足に力を込めて大きく地面を蹴った。

フェリスは人間では有り得ない跳躍力を見せつけて、廃屋の隙間をあっという間に飛び越えて行く。


その様を見ていたガークはつまらなそうに唇を突き出した。


「なんつー脚力だよ。本当にあいつは敵じゃなくて良かったぜ、全く」


ガークはフェリスの去って行った方向から目を逸らすと、頭上を仰いで鼻をひくつかせた。

乾いた風に乗ってくる匂いは、錆びた鉄や焦げ付いた焼け跡のキナ臭い匂いだけだ。

絶対不可侵区域は、気が遠くなるような広さを持ち合わせている。あまり遠くへは行っていないだろうが、小さな子供一人を探すのは骨の折れることだった。


「ちっ、世話の焼ける。どこに行ったのやら……ん?」


少し歩いた所で、微かな、ほんの微かな生物らしい匂いが流れてきて、ガークは目を瞬いた。

もしかしたら、この辺りをうろつく狂獣人、あるいはGPC奴らかもしれない。


油断は出来ないと、ガークは瓦礫や崩れた建物などの物陰に身体を隠しながら、正確に匂いを伝って行った。

匂いは廃墟の街の奥から流れて来ている。奥には、まだ原型を留めた建物が多く立ち並んでおり、何者かが潜んでいてもおかしくは無かった。


時には匂いが薄れ、殆ど感じなくなってしまった時もあったが、丁度一キロメートル程進んだ所で、ガークは人影のようなものを視認する。

廃墟の街から荒地に繋がる境界の辺りに、小さな影のようなものが映し出され、ガークは目を凝らした。


(! 誰だ……?)


人影はこちらの気配に気付いたのか、すぐに動いて、あっという間に姿を晦ました。

だが、匂いまでが消えた訳ではない。ガークは顔を険しくする。


(もしかしたらGPCの囮かもしれねぇけど……匂いは一人だけだ。ゆっくり近付いて、背後からひっ捕らえてやるか)


ガークは足音を出来るだけ立てないようにして、人影が消えていった方向へと走る。

人影が消えていったそこには、巨大な廃ビルが聳え立っていた。遠目で見ても殆ど崩壊していない所を見ると、踏み入ってもあまり危険性は無さそうである。

元来、オオカミは追跡型捕食者だ。ネコ科ほど尾行には長けていないが、仮に追い駆け回す状態になっても、持久力には自信がある。

ガークは穴の開いた廃屋の中を縦横無尽に走り抜け、一気にビルの裏へと飛び出した。


「……!」


その時、ガークの目の前に、すっと人影が通り過ぎる。

かなり機敏な相手のようで、ガークの眼で捉える以前に走り抜けてしまった。

しかし、すでに距離がかなり縮まっていたのは言うまでも無い。その人影らしきものは廃ビルの中へと駆け込んでいく。

その滑稽な様を見て、ガークはにやりと笑った。


「待てッ! 何者だお前は!?」


ガークは素早く地面を蹴って、廃ビルの窓から内部へ侵入する。

ビル内部は砂埃が蓄積し、僅かに走っただけで視界が悪くなってしまったが、匂いまでが消えた訳ではない。

ガークは嗅覚に頼りながら、ダンダンと足音を立ててビルの中を走り回っていると、やがて、一つの小部屋に突入した。

その小部屋は、元は談話室か何かだったのか、机が乱雑に散らばっているものの、埃被った本棚やキッチン、テレビなども設置されている。

ガークが目を向ける先には開放感を感じさせる窓が設けられており、傷んではいるが落ち着いた雰囲気が感じられた。


……そして、その窓の下で、震えるようにして座り込んでいたのは……フェリスと似た頭髪の色を持った、一人の少女。


黄丹色の流れるような長髪に、頭には緋色に白い模様が描かれた三角巾が巻かれている。

白を基調とした清楚な服装はあちこちに土汚れがついており、僅かに血痕のようなものも見て取れた。

明らかに、何かの騒動に巻き込まれた服装……だが、ガークは彼女の顔を見て目を見開いた。


「お、お前……もしかして、リオか?」


「! その声は……ガークさんですか?」


リオと呼ばれた女性は、ばっと顔を上げて言った。

その端整な顔には、所々に泥のようなものが付着しているが、怪我をしている訳でもなさそうである。

予想だにしなかった相手に、ガークも驚いたように吐息を漏らした。


「まさかお前に会えるなんてな。ちょっと草臥れてるみたいだが、生きていてくれて良かったぜ」


「はい、ガークさんも元気そうで。……フェリスさんは? 今は、ガークさんも一人なのですか?」


リオの問いに、ガークは咳払いをして続ける。


「……あんまり大きな声じゃ言えないが、フェリスも一緒だ。二人で行動していた。そういうなら、お前はどうなんだ?
他に仲間は? ――レパード達は一緒じゃなかったのか?」


「いえ、二日前まで一緒にいたのです。ですが、いきなりGPCの刺客達に襲われてしまって、私だけ逸れてしまいました。
それで、レパードさん達をずっと探し回っている最中だったのです。そしたら、ガークさんと会って……」


「じゃあ、今はあいつらはいないのか。……大体、何処にいるのか検討は付くのか?」


ガークは外を見詰めながら訊く。リオも視線を追って荒地の続く大地へと目をやった。


「恐らく、近くにはいると思います。私も、そう遠くまで逃げ回っていた訳ではありませんから。……フェリスさんもお近くに?」


「ああ、ちょっとした事情でな。俺等も、仲間を探しているんだ。丁度二日前に拾った小娘なんだが、やっぱ色々悩んでたみたいで、今朝には姿を消していた……
このままじゃ放っておけねぇし。フェリスと一緒に手分けして探しているんだよ」


「仲間……ですか?」


リオが訊くと、ガークは神妙な面持ちで頷いた。


「お前よりもまだ幼い子供だ。……狂獣人やGPCの奴らに襲われて無ければいいが……。そのためにも、早く見付け出してやらないと」


「それなら、私もお手伝いします」


リオの提案に、今にも駆け出そうとしていたガークが振り向いた。


「! お前は、レパード達を探さなくて良いのか?」


「……隊長達は強いです。私が生きていれば必ず会えると思いますから」


「そうか? 無理はしなくて良いんだぜ」


「いえ、折角会えたのですから、少しでもお手伝いさせて下さい」


リオは微笑んでそう言った。ガークはその顔を見て頬を赤らめると、頬を指先でぽりぽりと掻く。


「はーっ、お前があのネコ女と同じ出身とは思えないぜ。
まぁ、お前は波動を捉えられる奴だから、頼りになる。フェリスみたいに悪態も吐かないしな」


ガークが苦い顔をして言うと、リオも苦笑した。


「急ぎましょう。まだ幾つかの狂獣人の波動も感じます。早い所、その子を見付け出さないと……」


「てめぇに言われるまでもねぇさ。……フェリスの奴も、レパードと遭遇してなきゃ良いんだけどな……」


ガークは翳りを見せて、小さく呟くと、リオと共に廊下へと飛び出した。






――――――――






小さな小川が滾々と流れる川縁に、遙はぼんやりと座り込んでいた。

この廃墟と乾いた大地が広がるだけの荒地に、こんな場所があるなんて、と、遙はそっと顔を上げて、周りを見る。

薄らとだが、芝のようなものも生えている。更には、細い樹木までもが幾つか見受けられた。

久し振りに植物を目の当たりにした気がする。空こそどの場所でも変わらない光景だが、こうやって川と緑があるだけで随分と落ち着く気がした。


遙はそっと手を小川の中へと差し入れた。日差しで少し温まった水は、冷た過ぎない柔らかな感触がする。


「安心しろ、その水は飲める水だ」


急に上から声がかかって、遙は慌てて顔を上げた。

全身を包帯に包んだ男、ゲイルが腕を組んでこちらを見ている。その翡翠色の瞳が、遙の様子を伺うように細められた。


「その様子を見る限り、殆ど水も飲んでいないみたいだな。目に力が無いぞ」


「は、はい。昨晩は急いでいたので……」


遙はたじろぐようにして俯いた。

つい数分前に、この水場に到着してから、レパードは「すぐに戻る」と言ったきり、姿を消した。

彼女の仲間らしいゲイルと二人で取り残された遙は気まずい雰囲気の中、緩やかに流れる水を見詰めていたのである。


今頃、ガーク達はどうしているのだろう。やはり、探しているのだろうか。……遙は複雑な気持ちだった。


「……何か考えているのか」


「え?」


低い声で問われ、遙は隣に座るゲイルを見た。


「お前は俺と似たような匂いがするな。……複雑な、獣の匂いだ」


「複……雑……ですか?」


「キメラ獣人だろう?」


「!?」


遙はその言葉を聞いて弾かれるように立ち上がると、ゲイルに対して身構えた。

何故こちらがキメラだということを知っているのだろうか? もしや、相手はGPCの刺客、あるいは、GPCに唆されてやってきた者なのか?

遙が固唾を呑んで、震える手足を差し向ける中、ゲイルは苦笑を漏らした。


「お前が警戒する理由は分からないが、少なくとも危害を加えるつもりはない。お前を倒すつもりでいたのなら、こんなに話をすることもないからな」


「ですが、どうして私がキメラ獣人だということを知っているのですか? GPCから、聞いたとか……」


「ふ、お前だけがキメラ獣人という訳じゃないということだ。……この手足を見れば分かるだろう?」


ゲイルはそう言うと、自らの手を遙に差し出して見せた。

ゲイルのその手足は人のものではない。赤く、鋭い鉤爪が人間時の状態で生じている。

それだけではない。ゲイルがおもむろに腕の包帯を剥がして見ると、その肌には痛々しい炎症反応が見て取れた。

彼の肉体に、遙は息を呑んで言葉を失った。遙が絶句している様子を、特に咎める様子も無く、ゲイルは目を閉じる。


「お前のように、しっかりした形にはならなかったようだ。こうやって包帯を巻いているのも、この副作用のせいさ。
……俺の場合、身体が常に炎症反応を引き起こしている。幸い、獣人の抵抗力は凄まじいようでな、感染症には罹らないようだ」


「副作用……?」


遙は手を下ろして、呟いた。


「私には、そんなこと……」


「別にお前を咎めている訳じゃないさ。キメラ獣人はまだ他にいるが、俺が見てきた中で、お前は精神的にも比較的落ち着いた個体のように見えるよ。
……何と言っても、こんな姿を見た奴は、大概逃げ出してしまうからな。まだ幼いお前が、こうやって向き合って会話してくれるのは驚いたよ」


ゲイルは皮肉交じりに呟いた。


「レパードの奴だけが、俺に付き纏ってくれてな。今こうやって此処にいるのさ。……っと、噂をすれば、戻ってくるものだな」


「え……?」


ゲイルの言葉を聞いた遙が首を傾げた途端、微かな微風を上げてレパードが頭上から降りてきた。

どうやら背後の丘から一気に跳び下りてきたようだが、特に息が乱れている様子も無く、その足取りは軽々としている。

……凄まじい脚力だ。遙は目を瞬いて、足の埃を手で払っているレパードを見た。


「……数キロ先まで行ってみたが、リオは見付からなかった。もしかしたら、敵の出現を恐れて、身を隠しているのかもしれないな」


レパードは肩を軽く鳴らしながら告げた。


「そうか。だが、リオならそこまで心配する奴じゃない。あいつは賢いし敏捷性に優れている。いざとなっても、すぐに切り抜けるだろうさ」


「リオ?」


レパード達がやり取りをしている中、遙が名前を呟いた。


「何だ、聞いたことがあるのか?」


「え、いえ……何でもないです」


遙は首を振って否定した。……彼女達が探している仲間とは、ガークとフェリスではないのだろうか?

グループが分かれているというのは、ガークにすでに教えてもらっていたが、元は一つの集団だったとも言っていた。

ならば彼女らも、元はガーク達と同じ仲間だったのではないか? 一体何が原因で、散在することになっているのだろう。


遙が考える中、レパードは溜息と共にその場に三角座りをした。

空に浮かぶ太陽は既に西に傾き始めている。焼ける地平線をサングラス越しに見詰めながら、レパードは目を細めた。


「もう昼過ぎだな。嫌な日差しだ」


「あの……」


遙は急にレパードに問い掛けた。


「どうした、ハルカ?」


「あなた達の仲間は、何人程いるんですか?」


遙の問いに、レパードは視線を変えずに答える。


「そんなに多くはないさ。リオという女の子と、もう一人、狼の獣人がいる。まぁ後者は何処にいるのか分からないが。いつも出払っているよ」


「他にはいないんですか? もう一人か二人ぐらい」


「何だ、えらく詮索するじゃないか。何か気になることでもあるのか?」


レパードは苦笑しながら言った。遙は肩を揺らす。


「あの、レパードさんなら、私の仲間の人達を知っているかな……って。それに、どうしてこんなに仲間が散っているのかってことも……」


「……名前を聞けば分かるかもしれないな」


レパードの答えに、遙が口を開いた途端、後方から砂を蹴るような音が響いた。


その音は、まるで足音のようで、ザッザッ、という短い間隔で素早く移動してきているのが分かる。遙達は一斉に丘の方へと視線をやった。

徐々に近付いて来る足音。やがて、その足音の主が丘の上へと姿を現した。


「! 遙……ッ」


「フェリスさん!?」


遙は相手を見て、思わず叫んだ。

見間違う筈も無い。彼女の赤いストールが風に煽られて翻り、よりその姿を引き立てる。彼女の透徹した碧眼が、遙の瞳をがっちりと捉えた。


拠点としていた廃屋からは、何キロも離れている場所だ。それなのに、こんなに早く見付かるなんて……

遙は複雑な気持ちになってフェリスを見ていると、次第に彼女の表情が驚きと怯えのような色を湛えるのを感じた。


「まさか……」


フェリスが丘から滑り降りるようにしてこちらに近付いて来ながら、呟いた。

フェリスの姿に、遙が足を引こうとしたその時、大股でレパードが横を通り過ぎ、前に出て行く。

レパードの赤い眼が、フェリスの碧眼を射抜くように睨み付けた。その姿を目の当たりにしたフェリスは、震える声音で話しかける。


「レパード、なの? あなたに会うなんて……」


「それ以上近付くな」


フェリスの言葉を、レパードは払拭するようにして一喝した。

遙の背筋に悪寒が走る。レパードの声は、先程の柔らかさが嘘のように消え去り、まるで凍て付くように冷厳な声量となっていた。

レパードは遙とフェリスを交互に見やりながら、眉を顰める。


「さっきのこのハルカの言葉といい、お前がこいつの仲間とやらか? また同じような惨劇でも繰り返すつもりでいるのか」


「……」


フェリスは押し黙った。遙は状況が上手く掴めずに状況を見詰める。

少なくとも、友好的な感じではない。むしろ、レパードからは何か張り詰めるような空気を感じる。

知らず知らずの内に、全身に鳥肌が立った。遙は唇を引き締め、レパードに向けて叫ぶ。


「ま、待って下さい、何があったのか知らないですが、フェリスさんは何も悪いことをしていないですよ!」


「遙……」


フェリスが眉根に皺を寄せながら、呟いた。

遙の言葉を聞いたレパードは、遙を睨むような視線で見下ろし、囁くように話し始める。


「……お前はフェリスのことを何も知らないだけだ。そこを退け」


レパードの言葉に真意を見出せない遙は、思わず聞き返した。


「! 何をするつもりなんですか? ……そうやってフェリスさんの名前を知っているということは、元々仲間だったんじゃないですか?」


「――ゲイル!」


レパードが叫ぶと、状況を見ていたゲイルは砂煙を上げて疾走し、遙の身体を掴んだ。

遙は驚いて彼の腕に爪を立てる。だが、それはまるで鋼で出来ているかのように動かなかった。

ゲイルに捕まえられた遙を一瞥したレパードは、再びフェリスへ視線を戻す。


「暫くハルカを捕まえていろ。そいつがくだらない手出しをして、巻き込まない自信がない」


「……承知した」


その途端、彼の左腕を取り巻く包帯が引き千切れ始めた。


左腕の皮膚が奇妙に広がり、それを導くようにして薬指と小指の指骨が細く、外側へと弧を描きながら伸びてゆく。

やがてそれは分厚い手膜を持った翼手となった。一番外側の指骨からは不気味にも、数本の赤い爪のような組織が突き出している。

そういう所を見る限りでは、コウモリのように飛行能力を持ち合わせたようには思えない形である。むしろ、戦闘用に特化した形といった印象があった。

ゲイルの変化は左腕だけに留まらず、鼻先が伸び始めると、包帯を破ってイヌ科のマズルが顔を出し、頭頂部の包帯の隙間を潜り抜けてぴん、と尖った耳が現れた。

四肢の先端から見えていた爪は更に伸び、裂けた包帯の隙間から覗く皮膚は、短い獣毛がザワザワと覆っていく。


ゲイルが獣人化を終えると、普通の獣人からも逸脱した存在がそこに在った。

イヌ科のドーベルマンのような形をベースとした、コウモリの左腕を持つ獣人である。


遙は自分を捕らえているゲイルが獣人化する様と、その容姿を見て顔を引き攣らせた。

ゲイルは細長く伸びた口吻を器用に動かして、腕に抱えた遙の耳元で告げる。


「ハルカとやら。お前には悪いが、暫くは俺に捕まっていろ。……本当に殺されるぞ」


「! ……でもッ」


遙は腑に落ちずに、尚ももがいた。

仲間同士での争いなど、それこそ馬鹿馬鹿しいにも程がある。遙から見れば、レパードもフェリスも命を救ってくれたヒトに変わりないのだ。


「おかしいですよ……どうして戦う必要性があるんですかッ! まさか――」


「お前はさっき、どうして仲間が散っているのかと聞いたな」


遙の言葉を、レパードが低い声で遮った。フェリスへとその足を進めながら……


「確かに数ヶ月前まではこの絶対不可侵区域にいる獣人達は一つのグループに纏まっていた。
GPCに抵抗する獣人組織『BR』という形でな。……グループの首領であった、サハルという男が殺される前までは……」


「殺……される?」


レパードの思いがけない言葉に、遙は聞き返した。

フェリスが顔を険しくする。その様子を見たレパードは悔しげに歯を食い縛ると、震える声音で続けた。


「そうだ、殺されたんだ。お前が仲間だと言っている、この女にだ」


「!!」


レパードの鋭い視線の先に立つのは、遙の命を救ってくれた恩人――フェリスその人だった。

彼女は何とも言えない複雑な表情で、無言を保ちながらレパードの言葉を聞いていた。

やがて、フェリスは大きく息を吸い込むと、ゲイルに捕まえられて遙に向けて話を始める。


「レパードの言っていることは間違いじゃない。事実、私がグループ崩壊の原因になった……今更言い訳をするつもりはないわ」


「そんな……でも」


「くだらない話はそこまでだ」


遙の言葉を遮るようにしてレパードが腕を引いた。


「あんな事態を引き起こして起きながら、まだお前が生きているとは思わなかったよ。……今度こそ、その喉笛引き裂いてやる!」


「! やめてッ」


遙はゲイルから離れようともがいたが、今更どうにも出来ない。

全身を散弾で打ち抜かれるような殺気が迸ったと思うと、レパードが身体を弓形に沿って、空に向けて咆哮を突き上げた。


「ガァ、グオォォォッ!!」


刹那、人間の女性とは掛け離れた獣声が、荒地に轟いた。






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